【Interop2014】Yahoo! JAPANのスマデバ戦略について――APPS JAPAN2014基調講演

2014年6月12日 15時53分更新

ICTテクノロジーの総合イベントである「Inteorp Tokyo 2014」が6月11日より幕張メッセにて開催された。今年よりスマートデバイス向けアプリ専門イベント「APPS JAPAN(アプリジャパン)2014」も同時併催され、スマートデバイスの普及により今後急速な発展が見込まれるアプリ業界の最先端に触れることができるイベントとなっている。そのAPPS JAPANの基調講演として、ヤフー株式会社執行役員 CMOである村上臣氏が「Yahoo! JAPANのスマデバ戦略について」という題目で講演を行なった。近年ヤフーはスマートフォン向けアプリを多くリリースし、評判を得ている。如何にしてヤフーはヒットするアプリを多数作り出せたのか――。

講演する村上氏

講演する村上氏

村上氏は現在の経営に至るまでとして、まず2012年のヤフージャパンの経営刷新について触れた。市場の中心がモバイルサービスへと移行していくのを見据え、パソコン向けからスマートデバイス向けのサービスへと本格的に取り組むことを決めた。経営体制を一新し、役員が10才以上若くなり、経営陣と社員の距離も近くなった。ヤフーは経営が行き詰まって刷新した訳ではなく、以前からもうまくいっていた。その分、変わることが正しいのか疑問を挙がったという。しかし今までのやり方を変えるシンボルとして、自らがCMO(チーフ・モバイル・オフィサー)に就任したと語る。

新生ヤフーとなり、幾つかのキーワードを掲げた。創業から変わらず、ユーザーのためにあり続ける「ユーザーファースト」、以前の「ライフエンジン」から名前をシンプルにし、情報技術で人々や社会の課題を解決して、その中にビジネスモデルを組み込む「課題解決エンジン」、そして「爆速」である。

講演する村上氏

この「爆速」はキーメッセージであり、以前から一番変わった点だと村上氏は述べる。大企業というイメージを変え、市場のスピードが非常に早い中で「スマデバファースト」を実現し、ユーザーに驚きをもたらすサービスを生み出すために掲げるワードである。企業の掲げるキーワードは日々の業務に落とし込んでいかないと意味が無い。社員一人ひとりに浸透させていくためには、上が掲げ続けていくことが重要だという。

次にヤフーはどのようにアプリ開発などを進めていくかを村上氏は説明した。まず2つのイノベーションを例に挙げた。0から1を生み出すものと、1から10を生み出すものだ。前者は天才的なひらめきであり、後者は秀才的努力だと村上氏は位置づけ、ヤフーが行なっているのは1から10を生み出すイノベーションだという。

1から10を生み出すことは努力の積み重ねによってなされるものだが、どこかでジャンプアップが必要になる。ヤフーではそのジャンプアップとして、確実性より「爆速」を優先する。アプリのプロトタイプが出来上がったらそのまま市場に投げ、ユーザーの意見をコンサルタントのように受け入れてサービスを進めていく。

またそのイノベーションのために「10倍挑戦」もする。そのためには失敗を許容する文化が必要だと語る。「10倍挑戦」のためにはとにかくチャレンジする数、打席を増やすべきだという。経営者は結果として打率10割~8割というありえない数字を求めがちである。また違う課題をそれぞれ異なる人に任せるのがスタンダードだが、一人ひとりに違う課題を与えるよりも、10人に同じ課題を与えて競わせたほうが、課題を成し遂げる確率は上がると語る。2倍、3倍ならともかく、10倍を目指すためには5つのうち1つでも当たれば、という気概で挑戦すべきであるという。

具体的な方法論として「リーン・スタートアップ」を村上氏は挙げ、これを「失敗から学んで高速に回転していく仕組み」と定義する。

リーン・スタートアップ

リーン・スタートアップの基本サイクル。このループを絶えず回し続けていく。

日々モバイル市場は変わっている中で、悠長にベストな戦略を取るのではなく、素早くベターな戦略を取るべきだという。何故ならたった1ヶ月でその「ベスト」が変わってしまうこともあるからだ。結果として検討時間が短くなってしまうので不安も生じるが、その不安も高速にループを回しながら改善していく。また「リーン・スタートアップ」に関する考え方であるMVP(Minimum Viable Product)を村上氏は「仮説を検証するのに最低限必要な要素を備えたプロダクト」と定義する。仮説の段階では「なんとなく」いけそうだから進めていくのだが、何度も改善を重ねていくうちにこの「なんとなく」を検証していく必要がある。そのため村上氏は「リーン・スタートアップ」を、あいまいなものを確かなものに変えていくための方法論と位置づけている。

例として「僕の来た道」というライフログアプリが挙げられた。始めはGPSの位置情報の軌跡を自動的に地図上に表示するアプリであった。これをMVPとし、社内でそのアプリを配布したところ、面白いがバッテリーが保たないという意見が出てきた。それをフィードバックしてまたループを回し続けたところ、正確な位置情報ではなく、おおまかな位置情報を取得することで電池消費量を抑えられないかという話が出てきた。またフィードバックして回し続けると併せて文章で記録したいという意見が出てきた。こうしてまた何回か回し続けた結果、ライフログ自動化ツールというアプリとなった。絶えずどのような価値を提供しようとしているのか立ち返る必要があることを説明した。

またアプリは開発だけでなく、リリース後も絶えずループを回し続けることが重要だと村上氏は強調する。ユーザー体験はあっという間に減退するものであり、アプリを一度は使ってもらえるものの、多数はそのまま放置されてしまう。これはスコープをどこに置くのかによって変えられるものである。スコープを開発完了やリリースに置いてしまい、実際の運用にはリソースを割かない場合が多々あるが、これは前提が間違っているという。

スループットは瞬間値ではなくスコープ全体の積分値であると村上氏は説明する。アプリにおいてはリリース後1ヶ月の運用で、どれだけアップデート、フィードバックができるかが鍵であり、そのためにはループをどれだけ回せるかにかかっている。リーンによってスコープ全体のスループットを高く保ち、フィードバックのループを早く回して満足度を高く保つ。この前提を普通は間違いがちであるという。少なくとも1ヶ月はリリース後も開発チームを保つべきであり、運用においてループを回し続ける必要があるという。そのためヤフー社内ではこうした運用が可能になるよう、リソースが保たれるよう、細かくチームに別れて経営されており、会社内に幾つも会社があるような状態である。無論リソースを保つためには撤退の判断も必要になる。2014年には上半期に12のアプリを統廃合し、18のフューチャーフォンのサービスを終了予定だ。選択と集中によりループを回し続けるためのリソースを確保しなければならないという。

村上氏は全てのモダンな方法論は、スコープの中のスループットを最大化するものと位置づける。そのためにはスコープがずれていないか、スループットは高く保たれているかが重要であるという。ヤフーの「爆速」はスループットを高く保つために、フィードバックのループをとにかく早く回すよう、社員の中に刷り込むためのキーワードである。

なお講演の最後にワイモバイルをヤフーが買収を中止して話題になった「Y! mobile」についても少し触れてくれた。ヤフーとしてはユーザーにフューチャーフォンからスマートフォンへの乗り換えをしてもらいたく、そのためには通信事業に直接取り組んだ方が早いと判断して、「Y! mobile」を立ち上げたという。スマートインターネットを全ての人の手に届けるのが目標であり、全体を通してユーザーにどのような価値提供できるかが課題だと述べ、講演を締めくくった。

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