孫氏「ひと言で申し上げて順調」ソフトバンク 2017年3月期 第3四半期決算発表
2017年2月9日 09時11分更新
ソフトバンクグループは2月8日、2017年3月期第3四半期決算を発表した。売上高は前年同期比0.3%減の6兆5815億円、営業利益は同18%増の9497億円、純利益は同99%増の8574億円で大幅増益となり、発表会見の場に登壇した同グループ代表取締役社長の孫正義氏は、「ひと言で申し上げて順調」と自信を見せた。
微減となった売上高については、国内通信事業とヤフー事業が増収となったほか、アーム事業も新たに加わったが、スプリント事業と流通事業は減収となった。スプリント事業は米ドルベースでは増収だが、為替変動の影響で減収となった。
増益となった営業利益の要因として、国内通信事業で532億円、スプリント事業で857億円、流通事業で204億円、それぞれのセグメント利益が増加したほか、新設のアーム事業で303億円のセグメント利益を計上した。一方、ヤフー事業のセグメント利益は、前年同期にアスクルの企業結合に伴う再測定による利益594億円が含まれていたため、431億円の減少となった。
営業利益がほぼ3倍に伸びたスプリント事業が利益成長を牽引する形になったことについて、孫氏は、
「ちょうど2〜3回前の決算発表会の場で、みなさんのイメージでは、スプリントは倒産寸前で解決策は見えないと写っていると思いますけど、僕の頭の中、胸の中では、スプリントはこれから成長の牽引役になると、心の中で自信が出てきたと申しましたけれども、その自信が結果として数字に現れてまいりました」
と語り、同事業の今後の成長を力強く印象付けた。
主要セグメント別にみると、まず国内の通信事業は、セグメント利益が前年同期比8.9%増の6515億円となった。通信サービス売上の増加は、光回線サービス「SoftBank 光」の契約数の増加に伴い、ブロードバンドサービスの売上が前年同期から704億円(56.6%)増加した。移動通信サービスの売上は、「おうち割 光セット」の累計適用件数の増加に伴う割引総額の増加(通信売上の減少)や、PHS契約数の減少などにより、前年同期比2.0%減の1兆4343億円となった。
累計契約数は、スマートフォンとタブレットは純増、従来型携帯電話とモバイルデータ通信端末は純減。特に「Y!mobile」スマートフォンの契約数が好調に推移し、累計契約数は前期末から増加した。
ブロードバンドサービスについては、「SoftBank 光」が牽引役となり、ブロードバンドサービス全体の契約数が増加。「SoftBank 光」については、「おうち割 光セット」の拡販に注力したことに加え、他社の光回線サービスからの乗り換えを促進するキャンペーンを積極的に行ったことが奏功したという。
その結果、フリー・キャッシュ・フローは、前年同期比81.7%増の4349億円となった。調整後EBITDAが増加したことに加え、通信設備の取得に伴う支出が減少。2017年3月期のフリー・キャッシュ・フローを5,500億円に上方修正した。
そして、今回の決算発表で、孫氏が多くの時間を割いて紹介したのが、前述のスプリント事業の“イメージ改善”である。「我々の一番難しかった直近の事業はスプリントです」と述べ、スプリントを「最悪の過去」と表現した。
2013年、ソフトバンクは米キャリアで当時3位だったスプリントを買収した。そして、競合のTモバイルも買収して合併させ、米国の2大通信事業であるAT&T、ベライゾンへの対抗勢力を作る計画であった。しかし、孫氏の戦略は狂い、計画はとん挫。スプリント単体での再建を余儀なくされた。
買収後のスプリントは、ネットワークの品質、純増、利益、フリー・キャッシュフローのどれもが最悪だったという。孫氏自らが、チーフ・ネットワーク・オフィサー(CNO)として陣頭指揮を取り、再建に向けて背水の陣で臨んだ。当時のことを振り返った孫氏。
「『買わなきゃよかった』とずいぶん後悔しました。自信をなくしました。世の中が嫌になりました。だいぶ毛も薄くなりました(笑)。もう売りたくてしょうがないというところまでいきました。」
その後、ソフトバンクは「4つの反転戦略」としてスプリントの改革を進めた。ネットワークを改善し、顧客獲得を増やし、経費を下げ、資金調達の多様化を実施した。孫氏は、現在も、週1回の電話会議にCNOとして参加している。
その結果、スプリントは売上高の拡大を図るとともに大規模なコスト削減を進め、成長軌道への復帰を目指す段階まで来た。売上高は、端末売上の増加が通信売上の減少を上回り、前年同期比2.9%増の24,808百万米ドル。セグメント利益は、前年同期比179.1%増の 1,365百万米ドル、調整後EBITDAは、前年同期比20.1%増の7,365百万米ドルとなった。
「スプリントがソフトバンクの足を引っ張っていると、半分以上の人がいまだに思っているでしょう。しかし、そろそろみなさんの中でも認識を変えていただきたい。スプリントが成長の牽引役になる。」(孫氏)
今回、孫氏は決算発表会見の冒頭で「米国の政治がらみの質問はなるべく聞かないでいただきたい」と前置きをした。米大統領選挙後、孫氏はトランプ大統領と面会した最初の日本人経営者である。そして、米国での巨額な投資と雇用創出を表明し、メディアでも大きな注目を集めた。
しかし、その後、トランプ大統領は中東やアフリカの7つの国の人の入国を一時的に禁止する大統領令を発令するなど、多くの批判を浴びる人物になっており、孫氏に対しても「トランプ大統領寄り」と見られるのはリスクではないかとの見方も広がっている。
質疑応答に移ると、記者から米国絡みの質問が投げかけられたが、孫氏は、
「コメントはなかなか難しいし、また、複雑な問題がいっぱいありますので、単純に、イエス・ノーで言いづらいこともあるわけですけど。少なくとも私から見ると、シンギュラリティだとか、チップの革命、モバイル・スマホの革命というのは、あらゆる国々でどんどんとチャンスがやってくるし。その中心的な国である米国というのは、当然チャンスが真っ先にやってくると思いますね。ですから、そこに我々は積極的に投資をし、関わっていきたいと思っています」
と回答し、詳細について語ることは避けた。