竹中工務店、自立電源・通信機能を標準装備したモバイルハウスで社会課題解決へ
2025年4月18日 10時00分更新
建設大手の竹中工務店は、トレーラー開発・製造で実績のあるクロコアートファクトリーとの共同出資により、モバイルハウスやトレーラーハウスを活用したオフグリッド事業を専門に展開する新会社「株式会社オフグリッドフィールド」を設立し、神奈川県小田原市を拠点として本格的な事業を開始した。これは、近年の多様化する働き方やライフスタイル、頻発する自然災害への備え、そして地方創生といった現代社会が抱える様々な社会課題解決に向けた、新しいソリューションを提供する試みだ。
この新会社設立の直接的なきっかけは、竹中工務店が建設現場における働き方改革と生産性向上という喫緊の課題に対応するために進めてきた取り組みにある。2023年11月より開発・試験導入が進められてきた「牽引式オフグリッド型モバイルハウス」は、その名の通り、大型車両で容易に牽引・移動が可能でありながら、自立電源システム（高効率ソーラーパネルと大容量蓄電池の組み合わせ）と、衛星インターネットを活用した自立通信機能を標準装備している点が最大の特徴だ。これにより、電気や通信といった既存のインフラが整備されていない僻地や未開発エリアでも、設置後すぐに事務所や休憩所、あるいは小規模な店舗としての機能を発揮できる。試験導入された建設現場では、朝礼場所や打ち合わせスペースへの移動時間が大幅に削減されるなど、具体的な生産性向上効果が確認されただけでなく、仮設事務所設置の手間やコスト削減、現場作業員の快適性向上にも寄与した。さらに特筆すべきは、2024年5月に実施された大阪・関西万博の広大な工事現場内での移動式コンビニエンスストアとしての実証実験だ。これにより、建設業界関係者のみならず、イベント運営、小売業界、自治体関係者など、多方面からその利便性と応用可能性に対して非常に高い関心が寄せられた。この成功体験が、建設現場という枠を超え、より広範な社会課題解決への貢献という大きなビジョンへと繋がり、今回の新会社設立を後押しした。
新会社「オフグリッドフィールド」では、この先進的なオフグリッド型モビリティーを核として、社会の多様なニーズに応えるべく、主に4つの事業を展開していく計画だ。第一に、必要な時に必要な期間だけ利用できる柔軟性の高い「レンタル事業」。これは建設現場での活用はもとより、各種イベントでのバックヤードやVIPルーム、災害発生時の緊急対策本部や通信拠点、一時避難所としての利用、さらには法人・個人のリモートワークやワーケーションのための移動オフィスやサテライト拠点としての活用も広く想定している。第二に、継続的な利用や自社ブランドでの展開を希望する法人や個人を対象とした「販売事業」。利用目的に合わせた内装や設備のカスタマイズにも柔軟に対応する予定だ。第三に、「オフグリッド体験パーク」の運営事業。実際にオフグリッド環境での生活や仕事を気軽に体験できる場を提供することで、その魅力や実用性、そして環境負荷低減への貢献などを広く社会に啓蒙していく拠点となる。第四に、このモビリティーのユニークな特性を最大限に活かした「屋外空間の企画提案事業」。移動可能なグランピング施設やサウナ、地域コミュニティの交流拠点や学習スペース、期間限定の移動販売店舗やショールームなど、固定観念にとらわれない新しい空間活用のアイデアを創出し、その実現をトータルでサポートする。
今後の展望として、新会社は2025年2月に道路運送車両法に基づくレンタカー事業の認可を取得し、既にサービスの提供を開始している。初年度のレンタル稼働率は年間平均60%という意欲的な目標を掲げ、その達成に向けて積極的なマーケティングと営業展開を進めている最中だ。また、建設機械レンタル業界のリーディングカンパニーである株式会社レンタルのニッケンとも緊密に連携し、同社の持つ広範な営業・サービスネットワークを通じて全国各地でのレンタル利用を可能にすることで、より多くの潜在顧客へ迅速かつ効率的にアプローチしていく計画だ。将来的には、単なるモビリティーの提供者に留まることなく、社会全体の変革を促す「まちづくりモビリティーカンパニー」としての役割を強化していくことを目指す。場所に縛られない自由な事業展開や生活様式を可能にすることで、地域活性化や新たなコミュニティ形成を促進し、ひいてはSDGs（特に目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、目標11「住み続けられるまちづくりを」、目標8「働きがいも経済成長も」）の達成に具体的に貢献していく。この「オフグリッドフィールド」の挑戦は、サステナブルな社会の実現に向けた重要な試金石であり、未来の社会インフラや私たちの暮らし方に大きな変革をもたらす可能性を秘めている。
