遭難者のスマホをWi-Fiで即特定 ソフトバンクと東科大、新システム開発
2025年6月12日 09時00分更新
ソフトバンク株式会社と国立大学法人 東京科学大学は、雪山や山岳地帯での遭難者救助を迅速に行うために、スマートフォンのWi-Fi機能を活用した「遭難者携帯端末の位置特定システム」を共同開発したと発表した。
このシステムは、スマートフォンに内蔵されているWi-Fiの電波を利用して、遭難者の端末の位置を高精度に特定するもので、推定誤差を数メートル以内に抑えることができる。すでに2022年に発表されている「ドローン無線中継システム」と連携することで、通信圏外の山中でも端末の位置を特定し、捜索時間の大幅な短縮が可能になる。
一般的なGNSS(衛星測位システム)を用いた捜索では、雪下では推定誤差が約10メートルにおよび、実際の捜索では20メートル四方に及ぶ広範囲の捜索が必要となる。この場合、発見までに数時間を要することもあった。しかし今回開発された新システムを併用することで、現地到着後10分程度で、遭難者のスマートフォンに接近することができるようになる。

本システムは、Wi-Fiアクセスポイント(遭難対応AP)と、モニター用の携帯端末(RSSIモニター)、およびWi-Fi指向性アンテナから構成される。RSSIモニターは、アンテナが捉えた電波の受信強度を可視化し、遭難者の端末がある方向を特定できる。捜索者はアンテナを回転させながら、受信電力が最大となる方向を探り、その方向に進んでいくことで遭難者に近づく仕組みだ。
さらに、RSSIモニターには、電波の受信強度が一定のしきい値を超えた場合に効果音で通知する機能も搭載されており、視線をモニターに集中させずとも直感的な捜索が可能となっている。
東京科学大学で行われた実証実験では、10メートル四方のエリアに配置された紙袋のうち、1つに遭難者のスマートフォンを収納し、捜索者が新システムを用いて探索を実施。その結果、10分以内に該当の紙袋の付近に到達し、しきい値を超えた効果音によって正確に位置を特定することに成功した。誤差は約1メートルであった。

この技術は、現場での作業負担を軽減することにもつながる。従来、複数人の捜索者が横一列に並び、雪を掘り起こしながら慎重にエリアを確認する必要があった。しかし、新システムにより探索範囲が大幅に狭まるため、人的・時間的なコストが削減されるとともに、二次災害のリスクも抑えられる。特に吹雪や低体温症など、過酷な環境下での捜索活動においては、迅速さが生死を分ける重要な要素となる。加えて、遭難者のスマートフォンには、あらかじめ特定のアプリをインストールしておく必要がある。アプリには専用のWi-Fiアクセスポイント情報(SSIDとパスワード)が事前に登録されており、遭難時に自動で接続・通信を開始する仕組みだ。これにより、遭難者が意識を失っていても、端末から電波が発せられ続け、捜索の手がかりとなる。
今後、ソフトバンクと東京科学大学は、このシステムを「ドローン無線中継システム」と統合し、全国の自治体や消防、警察、災害対策本部などとの連携を進め、より多くの場面で活用されることを目指す。また、都市部の地震や土砂災害など、山岳地以外の災害シーンにも応用できる可能性があり、今後の研究と実証が期待される。
この技術の開発には、現場の消防機関からの要望や支援も大きく影響している。特に北海道倶知安町の羊蹄山ろく消防組合消防本部は、2021年から2022年にかけて技術支援を行い、実証実験の場を提供した。実際の遭難現場でのノウハウが反映されている点も、本システムの実効性を高めている要因の一つといえる。
このような取り組みは、災害時のテクノロジー活用の新たな一歩であり、スマートフォンと無線技術を融合させた救命活動のモデルケースとして、国内外の注目を集める可能性があり、今後も、テクノロジーの力を活用した安全・安心な社会の実現に向けた取り組みが期待される。
参考元:https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2025/20250609_01/